年末になると、全国各地で行われるベートーヴェンの「第九」の演奏会。
テレビやラジオ番組でも、この時期になるとよく特集が組まれているようです。
しかし、この「第九」は、なぜ年末に演奏されることが多いのでしょうか?
今回の記事では、その理由についてわかりやすく説明していきますね。
実際に「第九」を聴いてみようかな?と思った人にも、聴きどころを紹介しますので、ぜひ最後まで読んでみてください。
「第九」が年末に演奏される理由と聴きどころについて紹介します。
クラシック音楽の第九とは?
その前に、そもそも「第九」とは何か?
かんたんにおさらいしておきましょう!
ベートーヴェンが第九番目に作った交響曲
「第九」とは、ドイツの作曲家ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン(1770-1827)が第九番目に作り上げた交響曲です。
正式名称を「交響曲第九番 ニ短調 作品125(Sinfonie Nr. 9 d-moll op.125)」と言い「合唱付き」とも呼ばれています。
1822年に作曲を開始し、初演は1824年5月7日ウィーンで行われました。
このときベートーヴェンは難聴を患っており、初演時にはまったく聴こえていない状態だったとのこと。
演奏直後、指揮台に立っていたベートーヴェンには拍手の音が聞こえず、独唱者が客席に振り向かせて聴衆の熱狂ぶりを見せてあげたという話が残っています。
発表後は批判も多かった
大成功した初演とは裏腹に、当時は批判も多くあったようです。
曲が長すぎるだとか、器楽と声楽の組み合わせが良くないだとか、作詞家への冒涜だとか……。
しかし、それまでの交響曲とは違う斬新で型破りなこの楽曲は、後世の音楽家たちに多大な影響を与えたと言われています。
第四楽章「歓喜の歌」が有名!
「第九」は、第一楽章から第四楽章まで一時間ほどある大作。
当時、交響曲に声楽が使われることはほとんどなかったため、最後の第四楽章に入る歌部分はとてもセンセーショナルだったようです。
この合唱部分のメロディーがとても有名なので、きっと聴いたことのある人も多いと思います。
壮大な世界観の歌を、4人の独唱と合唱団が高らかにドイツ語で歌い上げる様子はまさに圧巻と言って良いでしょう。
自由と平等を歌っている
歌詞には、フリードリヒ・シラーが青年期に書いた「歓喜に寄せて」の一部の詩が使われています。
シラーは、太宰治の「走れメロス」の原案である話を書いたドイツの国民的作家なんですよ。
そんなシラーの「歓喜に寄せて」は、自由と平等、人間や世界の愛がテーマの詩になっています。
日本での第九の初演は大正時代
日本で最初に第九が演奏されたのは、さかのぼること大正時代。
1918(大正7)年6月、徳島の坂東俘虜収容所でのことです。
この収容所には、第一次世界大戦で捕虜となっていたドイツ人たちが収容されていましたが、松江豊寿所長の寛容な精神にもとづく運営により、所内では文化活動がさかんに行われていました。
そして、ドイツ人の指揮者ヘルマン・ハンゼンやその仲間たちによって結成された「徳島オーケストラ」が第九の初演を行ったのです。
楽譜を自分たちで作ったり、一部の楽器を自作したり、困難を乗りこえながら練習し、演奏会にこぎつけたそうですよ。
「最後は全員の大合唱になり、泣き出す者もいた」
自由を謳った「歓喜の歌」は、収容所の捕虜たちにとって、まさに「自由になること」を自分たちに重ね合わせ、願い歌ったのかもしれませんね。
海外では第九は主に祝事のときに演奏される
そんな「第九」ですが、海外では年末に限らず、季節関係なく演奏されています。
中でも、こけらおとしなどの祝事で演奏されることが多いようですね。
どちらかというと海外、特に欧米では、第九よりもヘンデルの「ハレルヤ・コーラス」が年末の定番曲のようです。
「ハレルヤ・コーラス」も第九と同じく晴れやかな楽曲ですが、その歌の内容は明確にキリストの神をたたえるもの。
キリストの降誕祭であるクリスマスが12月にあるので、こちらのほうがなじみ深いのかもしれませんね。
なぜ第九は年末に演奏されるのか?【クラシック音楽の習慣?】
それではどうして「第九」は日本各地で年末に演奏されることが多いのでしょうか?
そのきっかけと、なぜ現代もずっと続く風習となっているのか、謎を一緒に探っていきましょう!
昭和15年大みそかのラジオ放送から
年末に第九がよく演奏されている理由については諸説ありますが、最初のきっかけになったと言われているのが、昭和15年(1940年)の大みそかに放送されたラジオからでは?とのこと。
新交響楽団(のちのNHK交響楽団)の常任指揮者であるヨーゼフ・ローゼンシュトックにより演奏が午後10時30分から放送されたという記録が残っています。
実は、新交響楽団ではすでに昭和13年(1938年)から一年おきに12月に第九を演奏していたのですが、ラジオ放送されることにより「年末には第九」というイメージが一般にも広がっていったのかもしれませんね。
そして、1953年末にテレビでも中継され、全国のオーケストラも追随していき恒例化していったと言われています。
ドイツで行われる大みそかコンサートにならって
前述したローゼンシュトックは、来日する以前の1932年と1933年にドイツでジルヴェスターコンサート(年越しの演奏会)を行っています。
このドイツにおけるジルヴェスターの伝統を日本に継承しようという意思がローゼンシュトックに少なからずあったのではないかと考えます。
戦前のドイツでは、年末の「第九」は普通に行われていたようですが、戦後はすっかり演奏されなくなっていきました。
しかし、ドイツの「ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団」と、オーストリアの「ウィーン交響楽団」では、現在でも年末(主に12月30日と31日)に第九の演奏会を行っているんですよ。
一年の締めくくりを希望や決意で満たす
そんな年末の第九演奏会が廃れず、今でもずっと続いているのには、きっと他にも理由があるに違いありません。
第九の、特に第四楽章の晴れやかなメロディーと合唱は、聴いているだけで元気やはげましをもらえる気がしませんか?
大変だったなと一年を振り返り、来年もまたがんばろう!と思える魅力が、第九にはあるように思います。
努力と勤勉の人であったベートーヴェンとその音楽が、日本人の心に響いているのかもしれませんね。
参加型第九における達成感
年末の演奏会が盛況なもうひとつの理由として「参加型」の第九が全国的に行われていることではないでしょうか。
第九は「コンサート会場で聴く」だけはなく、アマチュアでも合唱団として参加できる演奏会が全国で行われています。
一年の終わりに向けて、大勢で何かを成し遂げるという達成感や一体感が、多くの日本人に受け入れられているのかもしれません。
これは、シラーの歌詞でも謳われている「すべての人々は兄弟になる」という思いと通ずるものがあるのではないでしょうか。
第九を楽しく聴くためのポイント
第九が年末に演奏されるきっかけや理由を説明してきました。
ここからは、少しでも第九に興味を持ってくれた方に向けて、初めてでも楽しく聴くポイントをお伝えしたいと思います。
第四楽章に向けて各楽章に伏線がある
第一楽章から第四楽章まである交響曲「第九」。
第一楽章は、絶望や怒り、そしてそれらにもがいている様子を表現しています。
第二楽章は、軽快なリズムでスピード感があり、高揚感も感じられる楽章。
静かで美しく暖かさを感じる第三楽章は、まさに天上の音楽と言っても良いでしょう。
そして「歓喜の歌」の第四楽章。
第四楽章の冒頭では、一〜三楽章のフレーズが流れ、それらのフレーズをチェロとコントラバスが「ちがう」と否定していき、歓喜の歌のメロディーへとつながっていきます。
「さっき聴いたフレーズが出てきた!」と思える楽しさがあるので、ぜひよく聴いてみてくださいね。
そして、各楽章を経てたどり着いた先にある素晴らしいメロディー……ベートーヴェンが導き出した答えともいえる終楽章にきっと胸がいっぱいになりますよ!
長さに抵抗があるなら第四楽章だけ
第九の平均的な演奏時間は、およそ75分ほど。
クラシック音楽になじみがなかったり、はじめて聴く場合は、長く感じたり、途中で退屈してしまうこともあるかもしれません。
そんな場合は、第四楽章だけ聴いてみるのはいかがですか?
華やかで高らかに響く合唱部分のメロディーは、第九を知らなくてもきっと耳にしたことがあるはずなので、飽きずに聴けると思いますよ!
好きな部分だけ聴いてもOK!
もし、あなたが「かっこいい!」と思える曲が好きなら第一楽章や第二楽章を。
穏やかな曲調が好みなら第三楽章だけ聴くというのもオススメです。
演奏会に行くなら通して聴かなくてはいけませんが、そうでなければどこから聴いても自由です。
楽章の一部分だけを繰り返し聴くことだって全然OKなのです。
もちろん、通して聴くことの魅力はたくさんありますが、自分が「好きだな」と思えるところをぜひ何回も聴いてほしいです。
かっこいい曲が好きなら第一・第二楽章、穏やかな曲が好きなら第三楽章もおすすめ
第九コンサートに行ってみよう!
興味が出てきたら、ぜひ第九コンサートに行ってみましょう!
12月は全国各地でさまざまな第九の演奏会が行われています。
一流のプロたちが演奏するコンサートから、アマチュアのコンサートなどなど……。
第四楽章に入り、合唱団が一斉に立ち上がるところは必見です!
クラシック音楽と第九のまとめ
楽聖ベートーヴェンの遺した最後の交響曲。
本場のドイツ以上に、日本における年末の演奏会がさかんなことがわかりました。
楽曲を聴いてみて「すてきだな」と感じたなら、ぜひコンサート会場にも足を運んでみてくださいね。
大合唱で歌われるあのメロディに、きっと感動で胸がいっぱいになりますよ!